最後の言葉

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あれから何度目かの季節が巡り、太陽が眩しく照らす夏を迎えました。 眩しい日差しを直に浴びることが、ここまで嬉しいことなのだと今になって分かります。 私のドナーとなってくれた佐藤春海さん……亡くなる直前意識を取り戻して「私の体、ドナーに……」と言ったそうです。 彼女の勇気ある行動で、私の人生は変わりました。 このまま終わっていくのだと、諦めて自暴自棄になっていた私に、新しい世界をくれた。 好きなだけ走って、美味しいものを食べて、自由な体勢で寝られる。 以前と同じなのに、今はもっと輝いて見える。 青い匂いがする風を体に感じ、再びこうして自分の足で立って歌う事が出来る。 それがどれほど幸せで恵まれていることか、気付かせてくれたら。 真っ暗なドームの中で、ただ一点、中央のステージにのみライトで照らし出された。 満席の客席に向かって、大きく手を振る。 「おかえり」や「ありがとう」の声が沢山降り注いだ。 以前は私が世界を変えるんだと、粋がって一人突っ走っていた。 でも、いつだって私は、みんなから支えられていたのだと気付く事ができた。 「……ねぇ、聞こえてる? 春海さん。あなたは一度この世界と体にさようならをしたけれど、みんなあなたの帰りを待っていたの。これから全国ツアーが始まって、アルバムや新曲も作っていかなければならない。私はあなたの様に勇気があるか分からない、でもこの歌声で人々の心を満たして世界を変えたいと思っている。私に出来るかな?」 胸に手を当て、人知れず彼女に黙祷を捧げた。 それに呼応するかの様に、手のひらがぽかぽかと温かくなっていった。
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