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最後の言葉は届いたのだろうか。
そんな不安をよそに、身体は急上昇を続ける。
あまりの速さに、目が乾いてチカチカする。
顔に当たる風は、少なくとも高速道路を走る車に入ってくる風よりは強いだろう。
つまり時速100キロは超えている。
ちらりと下に目を向けると、建物や車はもう認識できないほどに小さくなっていた。
こうしてみると、人なんて本当にちっぽけだ。
これだけ小さな存在が、世界を変えるなんて無理、言ってる人は大ホラ吹きだと思った。
なおも身体は上昇を続け、雲の中へ突入した。
子供の頃は綿のように感触があるものだと思っていたけど、その夢は実際に手を触れて脆くも崩された。
握った手のひらは宙を掴むと、白い雲たちはいとも簡単に手の平をすり抜けていった。
自分のことを嘲笑っているようにすら感じる。
子供の頃から、何が得意とか苦手とかは無かった。
平凡、中間、よく言えば普通の子で、悪く言えば面白みのない子だった。
誰々は頭がいいからきっとテストも満点だっただろうとか、誰々よりはまだ点数取れてると思うとか。
惚れ言葉も悪口も含め、私の名前がそこに登場したことはなく、その度に「自分は本当にここに存在するのか」と考えた。
戸籍も体もあるし、生命体として当然存在するのだけど、みんなと比べると陰が薄いように感じるのだ。
だからだろうか、私はいつだって寂しさを感じていた。
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