最後の言葉

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ぼすんと雲たちから体が抜けると、そこはもう宇宙の方が近かった。 再び下にある地球に目を向けると、雲間に大陸がみえ、緑の山や茶色の大地、真っ青な海が広がっていた。 呼吸を忘れそうになる。 それほどに美しかった。 しかし、その時もつかの間であった。 美しさに魅了される自分から、ふっと我に帰った瞬間、身体は吊るす糸を切られたように急降下を始めた。 登ってきた時の何倍もの速さで体が落ちていき、とても目を開けてはいられなかった。 そして突然下降が止まり、今度は水平に飛び始めた。 うっすら目を開けると、そこはビルがいくつも立ち並ぶ大都会であった。 心地よい秋の太陽に照らされ、人々は仕事に勤しんでいる。 ビルに飾られた広告からは、少し前に流行った歌姫の曲が流れている。 キャッチコピーは「世界を変える歌声」「感動を呼ぶ声」などと並んでいる。 隅の方に「病と闘う彼女の姿にエールを」と書かれていた。 それだけ愛されている人なのだろう。 あいにく私は、音楽に興味がない人生だったけれど……。 これくらいの人ならきっと、世界を変えるなんて簡単な事なのだろう。
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