最後の言葉

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ビルや人の隙間を、勢い衰えぬまま飛んでいった身体は、吸い込まれるようにとある病院の窓に入り込んだ。 真っ白な壁にぴっちり整えられたベッド、しかし沢山のぬいぐるみや千羽鶴、窓際に飾られた置物が、長らく入院している事を示していた。 ベッドには恐らく、私と同じ歳くらい、十代半ば頃女の子が体を横たえていた。 チューブが体に巻きついて、なんとも窮屈そうだ。 肌は雪の様に真っ白で、さらりと細くて長い髪、そして長い睫毛と大きな瞳にはどこか見覚えがあった。 覗き込んでいた私に気づくと、顔を少しだけ傾けにこりと微笑んだ。 酸素マスクの中だけで微笑むからか、ぎこちなく感じた。 私も微笑もうとしたけれど、心のとっかかりのせいか上手く笑えなく、なんとも変な顔をしていたと思う。 そこへ勢いよく扉が開いて女性が飛び込んできたかと思うと、勢いそのまま少女に抱きついた。 余りの勢いに、少女が潰れてしまいそうに思えた。 女性は五十代か、それより上かといったところだし、恐らく彼女の母親なのだろう。 「やった!!やったのよ!!ドナーが見つかったの!!」 興奮冷めやらぬのか、震える手で少女の肩を抱きながら、叫ぶ様にして言った。 その言葉を聞いた少女の目は、みるみるうちに光を宿していった。 光の粒はいくつもに増え、やがて満天の星輝く夜空のようになった。 あとから父親と思しき人物と医師も入ってきて、二人ともにこやかに笑っていた。 しかし、先ほどの美しい瞳をすぐに曇らせ、少女の目には陰が落ちた。 何か迷うかのように瞳が揺れている。 「その……ドナーの方は?」 「あぁ、千葉県の佐藤春海さんという方だよ。事故で昨晩亡くなったんだがーー……」 佐藤春海……事故で…… ……そっか、そうだったのか…… 胸の奥がズキンと音を立て、痛いようなくすぐったいような感覚に襲われた。 そして涙が溢れでてくる。 薄々感づいていたけれど、もう私の体は活動を停止したのだろう。 でも、今の話だと……最後の私の声は、ちゃんと届いたんだね。 医師の説明がまだ続いているが、少女は私の方を見上げた。 私は涙を抑えられなかった、でも自然と笑みが浮かんできた。 「さようなら、私。そして、おめでとう。新しい私のカケラ。」 今度はきっと、心の底から笑ってあげられたと思う。
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