第七章 ヴァンパイアの秘密

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「昔、大佐から一つだけヴァンパイアの話を聞いたことがある。確か一部のヴァンパイアは人間と共存する道を望んでいる、だったか。この話が本当なら、その亀裂の原因とやらはこれか……?」 「その大佐とやらは、よくこちらの内部事情を知っているようだな。大方その通りだ。当然それで意見は二つに分かれ、私とミハイルは共存派。そして、一人の人間は反対派。――今は解放軍、そう名乗りを上げてるらしい」 「解放軍……それって」 レフと話すルシフェルの言葉の中から『解放軍』という単語を聞いてしまえば、聞き覚えのある名前に思わずアキトは割って入ってしまう。 アキトの反応を見てか、レフはちらりと視線をこちらに寄越し、 「思い当たる節があるのか?」 「は、はい」 ヴァンパイアの記憶から得た情報。誰かの演説の言葉に『解放軍』という言葉があった。薄らと覚えているだけの記憶であったが、その名前だけはしっかりと覚えている。 思い出してみると、あの演説はおそらく反乱を起こすためのもの。でもきっとその解放軍と名乗るヴァンパイア達の狙いはソフィアと言うよりは、ヴァンパイアの王であるルシフェルだ。――そう、大して気にも止めていなかった事実なのだが、アキトの記憶が正しければ祭壇で演説していた者は、ヴァンパイアの王の名前を口にしていた。それは間違いなくルシフェルと言っていたのだ。 正直、今目の前にいるヴァンパイアが王だとは信じたくない。ただどうしても、ルシフェルという名前はそうそういるものでもなく、ミハイル同様に、この男にはルシフェルという名前が酷いくらい似合っているのだ。偶然同じ名前という馬鹿げた話ではないだろう。 それに今ルシフェルがこの話を持ち出してくる辺り、今回の騒動にただのヴァンパイアだけじゃなく、その『解放軍』とやらも関わっているのだろう。正直な話、ややこしくなってくる。いや、そもヴァンパイアがソフィアを狙っているという時点でややこしいのだが、なんだか妙な違和感を感じている。 ヴァンパイアがソフィアを狙う理由が分からないからだろうか。ヴァンパイア狩り自体は、この国だけで行われているわけではない。確かに大きく軍隊として動いているのは限られてくる話だが、そこにどうしてソフィアが関わってくる? それに解放軍の目的はおそらくルシフェルを殺すことだ。なんの繋がりがあってソフィアが狙われる? それに限らず引っ掛かる点はこれだけじゃない。不自然なことが多すぎてあやふやみたいになってるが、どうも意図的にソフィアの護衛任務が軍に与えられた気がして気持ち悪い。そしてルシフェルはこうなる事を知っていた。いや、こうなるように仕組んだ。地下牢に行く時ミハイルが言っていた。どうやってアキトを連れ出すか。たまたまヴァンパイアを捕え、たまたまアキトがいたからアキトを使う手段を思いついたとは思えない。初めからこうなることが仕組まれていたのだとすれば、そこにルシフェルがいたことにも納得がいく。 初めからルシフェルはアキトが生きていると知っていて、ヴァンパイアの情報を引き出すためにアキトを利用した、と考えるのが妥当だとは思う。そうだ、そう結論を出さなければ自分の中でルシフェルに対する気持ちが変わってしまう気がする。この男は敵で、復讐相手。――そうでなければならないのだ。
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