第七章 ヴァンパイアの秘密

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「――アキト大丈夫か? おいアキトッ」 「っ、はっ、はあっ、はっあ……ッ」 聞き覚えある声に、闇に落ちたアキトの意識は覚醒した。自分でもビックリするぐらいに心臓はドンドンと打ち付けるように速く、呼吸の仕方も下手くそであった。それもしばらくすれば落ち着きを取り戻し、落ち着きを取り戻す為の癖のように大きく息を吐けば鼓動の速さも、呼吸の下手くそさも。いつも通りのものとなった。 改めて意識を視覚に持っていけば真っ白な明かりに目が眩んでしまい、何度か瞬きをして、しっかりと目を開ける。 ゆっくりと体を起こして、ようやく現実だということを実感してから「夢……」と呟いてしまえば、隣から「大丈夫か?」と声を掛けられた。 隣にいたのはヴァンパイアの男だ。アキトの事を心配してか、男の手がアキトにへと伸びてくる。その手が夢の中の母と重なってしまって、思わずバシンっと弾き返してしまった。そのアキトの行動を見て、珍しく男は目を見開いて表情を変えた。 アキト自身も落ち着いたと思っていたが、実際にはまだ落ち着きを取り戻してはおらず、声を荒らげて、 「僕に触るな……ッ! 全部、全部お前のせいだっ。お前なんかがいるから僕は……くそッ」 完全なる拒絶を示すアキトの態度とは違い、男は受け入れるかのように両腕でアキトの身体を包み込んだ。 アキトはビクッと震え、今の行為を止めて欲しくて引き離そうとするも、アキトが抵抗すればする程に男の力は増していき、アキトはその腕に収まるしかなくなった。 抵抗を諦めた頃には、とくんとくんと動く男の心臓に、気持ちは本当の意味で落ち着いた。赤子のように、心臓の動く音に癒されてしまっていた。 「今はまだ死ねない。だが、全てが終わった時、私は死んでもいい。どちらにしろ残り少ない命だ。どうせなら私は、お前に殺されたいと思っている。お前も私を殺すことによって両親の敵が取れる筈だろう?」     
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