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優しくアキトの後頭部を撫でながら、堂々とした、命令を下すかのような言い方とは違い、ミハイルに似た柔らかな語調で男は話した。
アキトがそんな男に言葉を返そうと、戸惑い混じりな声をこぼせば、アキトの言葉を遮るように、イラつきに満ちた「おい」なんて声が降ってきた。その言葉と同時に男の頭を掴んで、声の主、レフはアキトから男を引き剥がそうとする。
「信楽アキトが目を覚ましたんだ。ベタベタしてないで話とやらを始めたらどうなんだ」
「これはこれは、レフ大尉とやらは怖いお兄さんだ」
冗談混じりに男は話してみせたが、レフの虫の居所が余っ程悪いのか、睨みつけるように男を見据え、男は苦笑いを浮かべてアキトから離れていく。そしてベッドから離れた場所にある、ミハイルが座っているソファに腰を下ろした。
「お前もお前だ。もっと考えて行動しろ」
「はい。……もう体は大丈夫なんですか?」
「お陰様で」
まるで上層部の帰りみたいだ。
虫の居所を悪くしてしまったのは、なんとなくではあるが自分なんだろうと思った。勝手な行動を沢山してきた。いくらレフの為だとは言え、それは自己満足でしかない。もしかしたらヴァンパイアになるくらいなら、死を選んだかもしれない。レフはきっとプライドが高い人だろうから、自分の中で許せない何かがあるのかもしれない。これを機に嫌われてしまったかもしれない、そんなことを思ってしまう。
でも例えそうだったとしても、それを知っていたとしても、アキトはこの選択を変えようとは思えない。どんな結末が待っていようと、レフを生かす道を選んだ。そんな気がするのだ。
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