第七章 ヴァンパイアの秘密

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目には見えない筈なのに、レフとミハイルの間にはバチバチと火花が散って見えるのが不思議だ。そんな二人の姿にアキトが呆然としてしまっていれば視線を感じ、ふとヴァンパイアの男にアキトは視線を変えた。 「え、な……え」 ――ジッと見られていた。まるで、二人を見るアキトを観察しているかのような。気持ち悪い視線。 「信楽アキト……?」 「あ、いや……なんでもない、です」 しどろもどろとになるアキトに気づいてか、レフは気遣うように俯くアキトの顔を覗き込み名前を呼ぶ。 突然迫る綺麗な顔にアキトの動揺は大きくなったが、不思議と深い赤色を取り戻したレフの瞳を見れば一瞬にして動揺は収まった。 しかし、このルシフェルとかいうヴァンパイアの男を見ていると、自然と夢の出来事を思い出してしまう。異様な姿の母と父。夢と現実の境目が分からなくなって、妙な現実感を抱いた夢。それに付け加えるように首を締められた時の感覚が鮮明に残っていて、恐怖が蘇ってくる。 胸糞悪い夢だった。それもこれも全部、この男がいなければ見ることもなかった夢。全部この男のせいで僕は――。 「……すいません、ちょっと外出てもいいですか」 下手に夢での出来事を思い出してしまえば、腹の底から嘔吐感が込み上げてきた。外の空気を吸って、この気持ち悪さをどうにかしたい。気持ちも落ち着かせたい。 「大丈夫ですか? 凄い真っ青ですよ。どうぞ、そちらのバルコニーを使ってください」 「すいません」 色々訊ねたいことはあるのに、今は話を聞ける状態になれない。色濃く残る夢は本当に夢だったのか、そう問いたくなるほどリアルに残り、それを思い出してしまえば、腹の底がぐるぐると渦を巻いているかのように気持ち悪くなる。 母の声、言葉。鳴り響くように頭の中で繰り返され、「どうして殺せないの?」そんな母の言葉が耳障りでしょうがない。 アキトがバルコニーの方へ向かおうとソファから腰を上げれば、アキトよりも先にレフが腰を上げ、バルコニーに向かった。 ゆらゆらと揺れているカーテンを開けて、バルコニーへのガラス窓を静かに開けてくれる。 今は何かを言葉にして発するのも億劫になり、ペコリとお辞儀だけをしてバルコニーにへとアキトは出る。そうすればなぜかレフも一緒にバルコニーにへとやってきた。
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