第七章 ヴァンパイアの秘密

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気持ち悪さは消えた。しかし、相も変わらず視線を合わせれば逸らすレフには嫌気がさす。 「なんですか? レフ大尉が欲しがる情報、僕は持っていないと思うんですけど」 目を逸らすレフから視線を外し、アキトは再度城下町にへと視線を向けた。 いつもそうだ。いつもレフはアキトから視線を逸らす。その理由を訊いても教えてくれない。返されるのはただの沈黙だ。やはり余り好いてくれてはいないだろう。先程の自分自身の態度を思い返してみれば明白で、それ以外にも失礼な態度は多く取っているから、嫌われて当たり前と言えば当たり前。けれど好かれていたいと思うのも事実で、だから目を合わせて逸らされるのが少しだけ悲しい。 それにアキトはもっと、その深く赤い瞳を見詰めていたいと、そう思っている。ヴァンパイアの瞳は嫌いだが、レフの瞳は嫌いじゃない。もっと見ていたい。そう思うのに、それをレフは許してくれない。 「――俺を助けた理由だ。あの場で俺を始末してしまえば、お前がヴァンパイアだと知る者はいなくなった筈だ。それなのに、なぜあの男と取引をしてまで俺を生かした……?」 疑問。それはレフの言葉だけに留まらず、表情すらも怪訝そうで、首を傾げられてしまえば、存在全体で疑問を投げつけられている気分にさせられる。 だがそんなレフの疑問はアキトにとって愚問でしかなく、 「そんなの決まってるじゃないですか。僕が貴方に死んで欲しくないって思ったから。でもそれで僕は、貴方を僕と同じにしてしまった。これが本当に正しかったのか、僕には分かりません」 レフの言葉に逸らした視線を思わず向けてしまえば、アキトの鼓動は飛び跳ねて音を速めた。 「――っ」 ――熱い眼差し。真剣な表情に、深紅の瞳。揺らぎない瞳で見つめられてしまえば変な緊張を覚え、羞恥心に似た感情を抱く。 いつもはレフが視線を逸らすのに、こっちが先に逸らしてしまいたくなる。 「……ありがとう」 ポソリとした声。冷たい空気に溶けていくかのような、そんな声でレフは感謝の言葉をアキトに向けて口にした。
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