第七章 ヴァンパイアの秘密

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「ここは素直に、ありがとう……そう言うべきなのかもしれないな。だが、お前の力はいらない。もちろんアキトには感謝してるし、その気持ちも嬉しい。だが俺は……俺の事にお前を巻き込みたくない」 「それは……どういう意味ですか?」 本気でいらない、そう言っているわけではないのだろう。レフの表情を伺えば、嬉しさからなのか頬は緩み、瞳もそれが滲み出ている。それなのに、そんな表情から伺える感情と実際に言葉として放たれるものには矛盾が生じている。 それにレフも気づいているのか、どこか憂いさが表情には滲み出始める。 「お前は俺に関わるべきじゃない。俺はお前が思っているよりも、ずっと軍の機密を知ってる。俺がお前に話さなくとも、俺と関われば自ずと知る羽目になる。そうなれば俺の力じゃ、お前を助けてやれない。本当は何の力も持たない俺なんかじゃ、いざって時になにも出来ないんだ」 「でもレフ大尉は知ってるんですよね。じゃあ同じじゃないですか」 「そうじゃない。違うんだ。本来なら俺の立場でも知り得ない情報だ。俺がそれを知っても尚こうして生きてるのは大佐の後ろ盾があるから。そうでなければ、俺は死んでる。だから後ろ盾もないお前が知れば、間違いなくお前は殺される。俺じゃお前を護ってやれないんだ。だからお前に手伝ってもらう訳にはいかない」 「でも……」 軍の機密情報。それは内部でも知る者が限られている、というのは誰もが知ってる話だ。 だが、この会話について疑問に思う点が幾つか浮かび上がる。どうして大尉であるレフが知ってはいけないのか。そして、なぜレフは大佐の後ろ盾が無ければ死んでいると答えたのか。 それだけヤバイ情報なら、どうやってレフは知ったのか、などだ。 「大丈夫だ。俺も無理はしないようにする。お前の心配はうざいからな」 顔に出てしまっていたのか、レフは笑って話して、年下を扱うお兄さんのようにアキトの頭をくしゃくしゃと撫でた。 「話はまた今度だ。今はそれよりも、あいらと話をしなきゃならない。そうだろ?」 「……はい」 本当はここで話を終わらせたくない。もっと訊きたいことは沢山ある。 それなのにレフの浮かべる表情があまりにも切ないものだから、アキトはこれ以上訊くことが出来ず、言われるままに同意を示すしかなかった。
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