第七章 ヴァンパイアの秘密

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そそくさと部屋に戻っていくレフから視線を外し、アキトは城下町にへと視線を送った。 こんなにも賑わっているのに、アキトの心はざわついてしまっていた。その原因は分かっている。前までと少しずつ現状が変化していき、『死』と呼ばれるものに近づいていってるのでないか。そんな不安が突然襲ってくるのだ。 色々な事がいっぺんに起こりすぎていて、現状に心が追いついていない。 それに夢に見た母と父の姿。それが追い討ちをかけるように苦しい。首を絞められたことが妙にリアルなのも、その感覚が今でも残っているのも、無意識の内に許されたいと願い、懇願しているからなんだと思う。 許されないとも分かっている。あんなにも復讐すると心に誓っておきながら、いざ目の前にすれば恐怖に身体が動かなくなる。それに留まることを知らず、母の言うようレフを優先し取引までした。取引をしてしまっている以上、レフは実質人質のようなものだ。アキトがヴァンパイアの男を殺すことが出来たとしても、それと同時に、ミハイルがレフを殺すことになるだろう。それはアキトもミハイルも望んでいることではない筈だ。手の届く距離にいて殺せない現実。 それが自身の首を絞めている。夢という形で現れるのもそれが原因なんだろう。いっそのこと母と父に殺されたい、そんなことを願ってしまっていることも、無意識下の自分に見透かされているのだろう。 「……なにやってんだろ」 どうすればいいのか分からない。先が見えない迷路に迷い込んでいて、道だけはどこまでも続いているのに出口がどこにあるのか、本当にあるのか。それすらも分からなくなって、その場に立ち止まってしまいそうになる。逃げ出したくても逃げ出せない。一面高い高い壁に阻まれていて、進む先は暗闇の一本道。その道がどこに繋がっているのか、そんな予想を立てることすらもできない。 「アキト、なにしてる。あんまり外にいると風邪引くぞ」 いつまでも部屋に戻らないアキトを心配してか、レフは顔だけを覗かせて話す。「今行きます」一言だけそう言葉を置き、アキトは部屋に戻るレフに続くようにバルコニーを後にした。
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