第七章 ヴァンパイアの秘密

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「記憶を覗けるだどうだの話は理解した。――それよりもアキト」 ルシフェルと取引したこと、記憶を覗き、その記憶の中の出来事。これらの説明を終えれば、レフはアキトの表情を伺うなり不服そうに話を切り出した。その表情を見れば瞳に留まらず顔にまで怒りが浮かんでおり、アキトには今現在レフが怒っている理由が分からない。 「はい……?」 「はい? じゃないだろ。お前分かってるのか? 俺なんかの為に取引に応じて馬鹿じゃないのか? それで俺は生かされたのか……? こんな奴の、あまつさえお前の両親を殺したヴァンパイアだぞっ、そんな奴の言いなりになるような真似して、俺が喜ぶとでも思ったのか?」 なんとなくだが経緯の話をしていて相槌を打つレフの雲行きが悪くなっているのは分かっていた。だがどうしてもその理由が分からないままでいれば、レフは饒舌に怒りを露わにして教えてくれる。 その言葉にアキトは、自分自身の行った行動が自己満足だと気付かされる。レフを自分の手で生かしたという満足感。そのために身を削って、自己満足のために生かされたレフ。怒って当然の結果であることに気づいた。けれどアキトには、自己満足だという結果が残されたにしてもそれで良かった。レフのためじゃない。自分のために生かしたと言われてもそれは間違っていない。怒られても何も言い返せることはないが、これでいいのだ。 確かにレフからすれば納得のいく結果ではない。自分を生かした相手が復讐相手である男と取引をして免れた命だ。レフに限らず軍人ならば皆、アキトの行動には疑問しかないだろう。中にはそれが偽善だと毛嫌いする者も出るだろう。救われたのが自身だと知れば、感謝と同時に疑問や怒り。そういったのが浮かび上がっても不思議ではない。 軍人である以上、時には仲間を切り捨てる事も必要だ。それが自分の目的を成す為なら尚のことそうするべきだ。そういう風に教えこまれ、そういう風に生きてきた。レフもそう。ずっとそう生きてきたのだと思う。アキトだって同じだ。だから今、ここにいる。 軍に入った頃は周りと馴染むつもりもなかったし、ルシフェルを殺せるならそれで良かった。けれど、段々とレフの噂を聞き実際にレフと対面して、その気持ちは綺麗に変わってしまったのだ。そうでなければこんな自己満足でしかない行動を起こしはしないし、そも、ルシフェルを殺すことを我慢するなどできはしない。 アキトを変えたのは言うまでもない、レフ自身だ。憧れで、ずっと目指してきた人がレフなんだ。だから憧れで大好きなレフを見殺しにしてまで復讐を果たしたいとは思わなかった。レフを見殺しにして、ルシフェルを殺すことができたとしても、それでなんになると言うのだろう。自分の中で復讐を果たすことができたとしても、心の中にある大事だと思う人を亡くしてしまっていては、生きる意味がわからなくなる。――これから生きていく為の意味を見出せなくなってしまう気がするのだ。 けれどレフが傍にいたら復讐を果たすことが出来た後でも、生きる意味を失うことはない気がする。そう、レフは光なのだ。先を照らす光。だから、なにがあっても死なせたくない。そう思うから、この選択が自己満足だと言われても間違った答えだとは思わない。 「レフ大尉の言う通りです。これは僕の自己満足でしかない。でも僕は貴方を見殺しにできなかった。自己満足だと、偽善だと思ってくれて構いません。レフ大尉は僕の憧れだから、生きていて欲しかったんです。僕は馬鹿だから……こういう形でしかレフ大尉を生かす方法なんて思いつかなかった」 「馬鹿……? そんな可愛いものじゃない。――大馬鹿者だ」
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