第七章 ヴァンパイアの秘密

46/46
前へ
/245ページ
次へ
「子供……? まさか、人間との間に子供がいるなんて言うんじゃないだろうな」 すかさず反応を示したのはレフだ。眉間にシワを寄せ、毛嫌いするように蔑む瞳をしている。だがルシフェルは気にすることはなく、 「そのまさかだ。愛した女性がいた。王という立場でありながら、私は人間の女性を愛し、子を宿してしまった。その子は当然忌み子として産まれ、今も短い人生を必死に生きようともがいてる。――これでは証明にならないか?」 「なる訳ないだろ。作り話ならいくらでもできる。お前との子供をこの目で見ない限りは、信じれる話ではない」 バッサリ否定を示すレフ。その姿はどこか忌み子、いや、人間とヴァンパイアが愛し合うことを毛嫌いしているように見える。確かに人並外れた行為だ。それが知られれば人間の女性は殺され、子供も場合に寄っては殺される。 それなのにヴァンパイアと人間の子供。聞かない話ではないのだ。実際に忌み子と呼ばれる子供は存在し、ひっそりと暮らしている。 レフは信じきれない様子だが、アキトは信じてもいい。そう思ってしまった。 確かに作り話かもしれない。しかし作り話にしては、先程から話をしている時のルシフェルの表情。それは酷く悲しげなものだ。演技かもしれない。騙されてるかもしれない。でも、――全否定はできない。 「僕は……信じてもいいと思います」 レフを見て自分自身の結論を出した瞬間、不安がわきあがる。 ヴァンパイアの味方をするような真似をして、不必要だと思われたらどうしよう。嫌われたら? そんな不安。嫌われるのは嫌だし、不必要だと思われれば殺される可能性が出てくる。もっと一緒にいたいと、そう思うのにアキトの出した答えは危うい。 「正気かアキト。お前の復讐はどうした? 両親を殺されているのに、この男を信じるというのか?」 今更後戻り出来ないのは分かっている。引っ込められる発言でもない。でもここをレフに譲るのはよくない。一緒になって信じないなんて言うのは、ルシフェルが可哀想。味方をするとかそういう話ではなくて、ただ悲しげな表情を浮かべるルシフェルを助けたいだなんて、そんな馬鹿らしいことを思ってしまったのだ。 「馬鹿らしいって分かってます。でも……僕には全部が嘘だとは思えません。それにこんな嘘ついてもルシフェルにはなんのメリットもないと思います。それなのに話すってことは、本当の話なのかもしれないじゃないですか」 「そうだが……」 レフはアキトの言い分を理解してか言葉を詰まらせる。『信じたくない』その気持ちが強いのだろう。そう簡単に信じれる話でないのも確かだ。 腹の底からレフが諦めの溜息を吐く。その反応を目にすれば「甘い奴等だ」とルシフェルが言葉を零すが、続けて「感謝する」と言った。 それに対してレフは突き放すような口調で「俺が信じたのはアキトだ」と言えば、男は声を出して笑い、アキトは少しだけその言葉が嬉しくて笑顔を零した。
/245ページ

最初のコメントを投稿しよう!

58人が本棚に入れています
本棚に追加