第八章 灰色の欲望

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第八章 灰色の欲望

一度話に区切りをつけるようにルシフェルは席を外した。そして部屋に残るのはアキトとレフのみとなり、二人揃って脱力するように身体の力を抜いて、だらしない息を吐いていた。 「っはは、レフ大尉もですか……?」 その様子がおかしくて思わず笑って会話を切り出せば、レフは組んでいた脚を崩し「当然だろ」と笑う。 自然のほつれた笑顔だ。 「ヴァンパイアとこんなにも会話をしたのは初めてだ。緊張するなという方が無理がある。下手をしたら何をされるか分からんしな」 「大丈夫ですよ。少なからずレフ大尉には何もしないと思います」 笑って話せば「だろうな」と言葉が返ってきて、返事に困りレフにへと視線を向ければ珍しく、じっとアキトを見ていた。 その視線は不意打ちなもので、勝手に心臓がドキリと飛び跳ね、普段の真逆。アキトから視線を逸らしてしまう。 「感謝してるとは言ったがな。俺はお前にそこまでして貰う程の価値ある存在じゃない」 「価値ってなんですか……?」 思わずだった。この人は何を言ってるんだと、そう思ってしまえば言葉を放ち、一度逸らした視線を再び合わせてしまえば、今度はレフが視線を逸らす。 気まずそうに視線を逸らすレフに追い討ちをかけるように、続けて言葉を発する。 「価値がなきゃ誰かに助けて貰うことすら許されないんですか? 誰かがレフ大尉は価値が無いって、そう言ったんですか?」 「言われてない、けど……」 喉に言葉が詰まったかのように、歯切れ悪く小さな言葉を返してくる。 レフは意外と弱い。強く言われればそれに負けてしまう。一緒にいると口ごもることも多くて、普段は無理をしているんじゃないかと思うことも多い。けれど心はしっかりしていて、自分のために。自分の成すべきことのために日々生きている。それとは真逆の顔が『レフ大尉』としてのレフ。 しっかりと任務を遂行し、大尉としての仕事もする。任務に赴くだけではなくて書類仕事も欠かさず、部下の面倒も見ていて。 価値がないと思う要素なんてどこにもない。 「じゃあなんでそう思うんですか。さっきだって何も力を持たないみたいなこと言ってましたよね。どうしてそこまで自分を過小評価するんですか」 「お、俺は……」 視線だけじゃなく、顔すらも逸らすレフに苛立ちを感じてしまう。レフはとても偉大な人だ。それなのに、こんなにも自身の評価が低いのは何故だろう。もっと自信を持って欲しい。誰もが憧れるレフなんだ。過大評価されるべきことは多い。それを自覚してほしい。 アキトはちゃんと目を見て聞いて欲しく、レフの両肩を掴み、顔を強引に向かせようとする。だがその行為は両肩を掴んだ時に、ぴたりと止めてしまった。 掴んだ肩から伝わってくる、静かな震え。それは確かにレフからの震えであった。
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