第八章 灰色の欲望

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「それよりアキトさん。ミハイルもっ! あの後どこ行ってたの? レフのこと探しに行くって言って、中々戻ってこないんだもの。挙句の果てには、警護隊で私の部屋密集地帯よ?? ちゃんと説明してくれなきゃ私納得しませんからね」 「あーソフィア様、それには訳があってですね」 未だルシフェルと立ち話を続けていたミハイルであったが、ソフィアの呼び掛けにより、すかさずテーブルを挟んだ向こう側のソファに腰を下ろして、前のめりになりながら返事をする。 そして平然とした顔でミハイルの隣に座ったのは言うまでもなくルシフェルである。部屋を出ていく前と変わらない顔つきを浮かべているようにも見えたが、どこか思い悩むような浮かない顔をしているようにも思う。 「ミハイルさん、分かってると思いますけど変なこと言わないでくださいね」 しかしルシフェルのことよりも自分が大事なアキトは釘を刺すように、念の為の言葉をミハイルに向ける。ソフィアはヴァンパイアとは無関係で、この国のお姫様だ。そんな人をヴァンパイアの騒ぎに巻き込みたくはなかったし、下手に騒がれたくもなかった。そんな思いを込めてミハイルにへと言葉を掛ければ、 「変なこと……? それはアキトさんが迷子になった、という話でしょうか」 予想すらしていなかった返答が返ってくる。 「迷子?」 「とぼけないでくださいよ。そんなに迷子になったこと知られたくないんですか?」 片目を一瞬瞑ってウインクをしてみせるミハイルを目にして、ようやく理解することができた。 どうやら釘を刺す必要すらなかったようだ。 「……と、当然じゃないですか。だって僕から別れてレフ大尉を探そうって言ったのに、その僕が迷子になっちゃうんですよ?城内って思った以上に広くて、どこも似たような景色だし、訳わかんなくなっちゃって。……恥ずかしいじゃないですか」 気づくのが少し遅かった気もするが、なんとか誤魔化せた気もする。 元からミハイルもソフィアに本当の事を話す予定はなかった。そういうことだろう。そうだ、よくよく考えてみれば、ミハイルがソフィアに本当の事を話すメリットはなにもないし、それはミハイルも困るのだろう。返って変な気を遣わせてしまうかもしれないのだ。 「まさか俺を探しに来た人を探す羽目になるとは思わなかったが。お陰で苦労した」 レフは本当の出来事のように笑いながら話してみせ、ミハイルと視線を合わすなり二人とも破顔一笑した。 その二人の演技力は圧巻であり、そうであったと思い込んでしまいそうな程に素晴らしいものであった。
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