15章 虎視眈々

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・ 「なんだか乗り気じゃないね」 向けられるフラッシュにポーズを取りながら悩むあたしにそう声を掛ける。 あたしの中で夏希ちゃんと肉の塊が乗った天秤がグラグラと揺れていた。 「二人、もう少し寄ってみて」 指示を出してくるカメラマンに答えてマリオの腕があたしの腰に回り抱き寄せる──。 近づいた距離でマリオはボソッと耳元で囁く。 「米沢牛…」 「──…!」 「最高級ブランド…」 「……っ…」 「常連しか知らない隠れメニュー…」 「いきますっ──」 「ぷっ……了解」 低い声で言いながら笑いを堪えてる。撮影終了を告げられグラスをスタッフに渡すとあたしは咄嗟にマリオのジャケットの裾を掴んだ。 「でも9時には帰らなきゃ──」 「なぜ?彼氏でも待ってる?」 「はい…」 マリオは顎に手を当てた。 「なるほど、それで返事渋ったわけか…」 あたしは小さく頷いた。マリオは顎をさすりながら、またぷっと思い出したように笑った。 「隠れメニューに負けるなら大したことない彼氏だな…」 「………?」 笑いながら小さく呟かれ、何を言ったかはっきり聞き取れない。マリオは笑みを抑えると 「今から行くならせめて9時30分までは欲しいね──」 「………」 「30分オーバーも無理?」 「30分なら──」 あたしの返事を聞いてマリオは笑顔で控えの部屋に入って行った。
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