15章 虎視眈々

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時間は7時を回っている── 今日は金曜日。喫茶店の仕事なら8時30分までの勤務だから30分程度のオーバーなら誤魔化しも利くだろうし── なんて計算しながらあたしはホテルのロビーを出た。 玄関前にはあの派手な赤い外車が止まっている。 「今日は僕の行き着けに案内するから」 相変わらずのレディファーストで助手席を進められる。宣言した通りマリオは行き着けのステーキハウスへ向かい奥のカウンター席へと案内された。 「焼き方は?」 「生で──」 「こらこら、ビールじゃないんだから……」 そうツッコンできた後にプッと笑っている。 「じゃあ、レアとウェルダンで──」 マリオはそう注文しておもむろに聞いてきた。 「ウェルダンはなんていう?」 「よく焼き」 「ミディアムは?」 「半生で」 「なるほど……通じるか今度使ってみる」 マリオは納得しながらあたしのグラスに赤ワインを注いだ。 「けっこう飲めるね──」 冷静な目であたしを観察している。注がれてしまうとつい飲んでしまうのはあたしの悪い癖だ── 目の前の鉄板で焼かれる最高級の牛肉をみたらどうしてもワインがすすんでしまう。 マリオはあたし好みを考えて気取らずこれるお店を選らんだのだろか? 隠れ家的こじんまりとしたつくりの店内はカウンター席のみでたった八つしか椅子がない。 その席は全て埋まっていた── 「“あれ”できる?」 「できるよ」 マリオはそんな言葉でオーナーシェフに訊ねていた。 隅の方で準備したまな板の上に活きのいい鰻が現れる。 「鰻!?」 「そ、鰻の刺身が隠れメニュー」 「へえ、珍しい…」 感動しながらあたしはその腕捌きを眺める。もとは鰻の卸業者だったらしいオーナーはその伝(つて)で天然鰻が手に入るようだった。 先に出された鰻の刺身に舌鼓を打ち、あたしは皿に次々に乗る肉を箸で食べながら店を眺めた。 「今日の店のチョイスはどうだった?」 帰りの車に乗りエンジンをかけながらマリオはさりげなくそう聞いてきた。 「合格だったかな?」 「はい!」 満足した顔であたしは答えた。
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