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「魔性……」
あたしは言われた言葉を呟いた。
なぜ?
食い逃げしようとしたからかな…
そう思いながらマンションの上を見上げた。家の明かりが微かに漏れている。健兄の可能性は限りなく低い。
試しに電話を。なんて携帯を開いた…
時間は9時半前、計算通りだ──
これで変に電話すると返って怪しいかも…?
そう考えてマンションのエレベーターに乗った。満足した胃袋のせいでつい鍵を振り回しながら鼻歌を奏でてしまう。
軽快に焼き肉ヨーデルを口ずさみあたしは玄関を開けた──
「ただいま~」
「お帰り」
待ち構えたように夏希ちゃんが目の前に立ち塞がる。
「喫茶店忙しかった?」
「……うん…」
なんだろう──ちょっと威圧が漂う…
ちょっと遅くなったことに腹を立ててるのかな…
そう思いながら子芝居を打った。
「遅掛けに来た客が中々帰んなくてさ~…」
「へえ…そう…」
いや~、参った!そう連呼するあたしに夏希ちゃんは短い返事を返していた。
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