73人が本棚に入れています
本棚に追加
・
“参ったっ参った!”
目の前の彼女は大して参った顔もせず、そう繰り返す……
演技力ゼロだな……
顔を見せて初っぱなから大嘘をついてくれる晶さんに腹の底から沸沸と何かが沸いてくるようだ。
意外に冷静に晶さんの演技を見ながら俺は聞いた。
「忙しかったならランチも売りきれたんじゃない?」
「ランチ? ああ~そうだねギリギリだったかな?」
「へえ…ギリギリ?」
「うん、ギリギリ」
「なんだったの、今日のランチは……」
「──……」
「二種類あるよね?AセットBセット…」
「……あ~…、…ポークカレーとアジフライ!」
少し考えて一週間のメニューを思い出せたのか、やけに力んで言っていた。
ソファに座った晶さんの背もたれに両肘を預け、俺は後ろから晶さんを覗き込む。
「おしいけど残念でした」
「……?」
「ポークピカタとアジ南蛮!…そして俺が今日、食べたのは和らぎ洋食セットです」
「──…っ!…今日!?」
晶さんはニコニコ答えた俺に思いきり動揺した顔を見せていた。
「見当たらなかったけど今日、働いてたんだよね?“喫茶店”でっ」
「………」
「マスターに晶さんを訊ねたら休みだって言われた──」
「……っ…」
「嘘つかれたな~“マスターにっ”…晶さんは俺に嘘なんてつかないもんね?」
ねっ!…なんて強調して二度も付け加えて顔を覗き込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!