15章 虎視眈々

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密かな焦りを誤魔化す俺に、社長はそのモデルのポスターを自慢気に広げて見せた。 「やっぱ脚だけ…」 「当たり前だ。メインはストッキングだからな」 「ふーん…しかしマリオは相変わらずリアクション激しいね?」 繰り返される画面のCMに目をやれば、まるで洋画のラブシーンそのものだ。 「マリオと組むって大変だな…この新人……」 そう呟いた俺に社長は微妙な視線を向けていた。 「ところが──ってやつだ」 「ところがって?」 オウム返しのように俺は聞く。 「撮影すんだ後に食事に誘われたんだと」 「へえ、マリオに?」 マリオが仕事上で誘うなんて珍しい── 「それからオファーあって一回断ったんだがマリオからしつこいくらいに連絡くるぞ」 「へえ…認められたわけだ?」 それはそれは── ウェンダム事務所のマリオと言えば知る人ぞ知る、仕事に対しては辛口で有名だ。 紳士なわりに泣かされる女性タレントも多いらしい ── そう言われてるマリオが自らオファーか… 俺も心なしか興味が沸く── 「マリオが車のCMでオファー出したんだがこっちのスケジュールが合わなくてな…一度断ったんだよ。そしたら向こうに火が点いたみたいでそりゃ猛攻撃だよ、オファーの」 「……すごいじゃん、マリオの出るCMって大手ばっかだし──」 「ああ、楠木の薦めでちょっとした臨時で頼んだらまさかの大当たりだ。結局、ウイスキーの店頭用ポスターのオファー受けて今日はその撮影だ──」 「なる。楠木さんのお眼鏡にかなったわけか…」 それなら納得がいく── そう思いながら何気に髭のホクホク顔をみて少し嫉妬した…
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