73人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
密かな焦りを誤魔化す俺に、社長はそのモデルのポスターを自慢気に広げて見せた。
「やっぱ脚だけ…」
「当たり前だ。メインはストッキングだからな」
「ふーん…しかしマリオは相変わらずリアクション激しいね?」
繰り返される画面のCMに目をやれば、まるで洋画のラブシーンそのものだ。
「マリオと組むって大変だな…この新人……」
そう呟いた俺に社長は微妙な視線を向けていた。
「ところが──ってやつだ」
「ところがって?」
オウム返しのように俺は聞く。
「撮影すんだ後に食事に誘われたんだと」
「へえ、マリオに?」
マリオが仕事上で誘うなんて珍しい──
「それからオファーあって一回断ったんだがマリオからしつこいくらいに連絡くるぞ」
「へえ…認められたわけだ?」
それはそれは──
ウェンダム事務所のマリオと言えば知る人ぞ知る、仕事に対しては辛口で有名だ。
紳士なわりに泣かされる女性タレントも多いらしい
──
そう言われてるマリオが自らオファーか…
俺も心なしか興味が沸く──
「マリオが車のCMでオファー出したんだがこっちのスケジュールが合わなくてな…一度断ったんだよ。そしたら向こうに火が点いたみたいでそりゃ猛攻撃だよ、オファーの」
「……すごいじゃん、マリオの出るCMって大手ばっかだし──」
「ああ、楠木の薦めでちょっとした臨時で頼んだらまさかの大当たりだ。結局、ウイスキーの店頭用ポスターのオファー受けて今日はその撮影だ──」
「なる。楠木さんのお眼鏡にかなったわけか…」
それなら納得がいく──
そう思いながら何気に髭のホクホク顔をみて少し嫉妬した…
最初のコメントを投稿しよう!