不毛の地に実りはあるか

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古びた木製の扉を開けば、「今日はもうお終いですよ」と、投げやりな声に迎えられた。声の主たる男は、振り向くことのないまま、祭壇に近い長椅子へと腰掛けていた。背もたれの上に両腕を預けた鷹揚かつ横柄な態度であるが、来訪者たる男は気にも留めず、擦り切れた絨毯の上を進んだ。 「日曜の朝だろう。ミサはやっていないのか」 「やっていたら、都合が悪いのはアンタだろう」 煙草をくゆらせ、神父服の男が不敵に笑う。 後ろでゆるく束ねられたプラチナブロンドの長髪は、遠目からでは彼を幾分か年嵩に見せるが、よくよく見れば青年と呼ぶのが相応しい年頃だった。右目を隠す前髪をさらりと揺らして、満足そうに煙を吐き出す様は、場所と服装さえ違えば路地裏でたむろする与太者と見紛うほどだ。 来訪者の男は、蛇を思わせる真紅の目を細めた。ステンドグラスから差し込む陽光は、古びた教会の中を七色に染め上げている。綺麗と形容できるものはそれ一つくらいで、ヒビの入った壁画に、身じろぎするだけで軋む床、うっすらと埃の積もった長椅子。振り返って見上げれば、パイプに穴の空いているパイプオルガン。酷いものだと思いはするが、寄付も修理もする気はない。
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