序幕『光』

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第一章~囚われの少女~ 序幕『光』 「お姫様。お前をさらいに来た――」  それは、夜の朝日、といえばいいだろうか。  闇は、生まれて初めて『光』を浴びた。  息もできない程の爆風が、少女の髪を彼方へと連れてゆく。  その髪は、異様なくらいに長かった。  眩い光と、風を受け、ピンクの髪は宙を泳ぐ。  赤の瞳は瞬きを忘れ、足は力を失い、 床に座り込んだまま、動けなくなっていた。  そもそも何が起こったのか、少女には見当もつかなかった。 起こっている事は一体何か、今のこの感情に名前があるなら、 教えてほしい――  光というものは皆無――窓のない部屋。  ここは、分厚く固い石壁に閉ざされた部屋だった。  少女はこの、常夜の世界のなかで囚われるように、暮らしていた。  この部屋の暗闇を、生きる世界の全てだと信じていたのだ。  それは一瞬にして、爆音とともに(くつがえ)る。  まさに、青天の霹靂(へきれき)――それは少女にとって、 夜に太陽の光が差し込んでくるかのような、 予想もつかない出来事だったのだ。
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