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二人きりの車内は通夜のように静かだった。一彬は車が鑑田の会社を完全に離れてから端的に聞いた。
「叔父さんか」
華生はまだ青白い顔で頭を抱えて震えている。
「……はい」
「知っていたのか? 鑑田の会社に勤めていることは」
華生は力なく首を横に振る。
「いいえ……当時はそういうことには疎かったものですから」
「あいつは恐らく、会社の幹部か何かだ。社長子息への態度が気安かった」
華生はプリーツスカートの裾を強く握りしめた。すると不意に一彬が「皺になるぞ」と注意する。
「心配するな。あいつにだけはお前は渡さない……絶対に」
華生が一彬に視線を向ける。震えが止まる。一彬の横顔はいつもと変わらない。ただ、ハンドルを握る手にはくっきりと青筋が立っていた。
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