四章

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「貴女が一彬さんといるのを見ると、俺の心にモヤモヤした何かが生まれるんだ。苛立たしいというか、口惜しいというか」 「あっ」 華生の首筋にチクリと痛みが走る。鑑田の爪だ。 「こんな感情初めてだから、正直自分でも戸惑った。でも気付いたんだ。この気持ちは……嫉妬(しっと)だ」 鑑田は華生の右手を持ち上げ、手首に唇を這わせる。手首への口付けの意味は欲望、これは「貴女が欲しい」という意思表示だ。 「あ……っ」 皮膚を引っ張られる感覚に声を漏らすと、視線を上目にした鑑田と目が合った。 「好きだ。華生さん」 鑑田の色素の薄い瞳には、華生しか映っていない。柔和な物腰の彼が決意に満ちた目で彼女を見つめている。 「……それが言いたかったんだ。じゃあ、また」 鑑田が顔の厳を抜き、最後にいつもの優しい微笑みを見せて玄関を去って行く。一度も振り返らなかった。一人になった華生は、おもむろにキスをされた右手首を見下ろす。
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