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五章
華生が鑑田に告白されている一方で、一彬は嶋木酒造の社長室で成親に詰め寄っていた。
「親父、話がある」
成親は小さな文字がびっしり書かれた書類に印鑑を押しながら生返事をする。
「言ってみろ」
一彬が目の前の机を強く叩き、成親はじろりと息子に視線を移す。彼は一彬の剣呑な様子に気付いてはいるものの、敢えて態度を変えることはない。
「華生と鑑田の結婚は白紙だ。想定外の事態があった。鑑田は駄目だ」
「お前が話を持ってきたんじゃないか」
「事情が変わったんだよ、とにかく鑑田はまずいんだ」
成親は耳の後ろを小指で掻いた。
「急に言われても困る……今日、柊聖さん直々に電話があった。華生嬢と正式に婚約したいと」
一彬は耳を疑った。
「あの男……正気か?」
昏倒する寸前のような蒼い顔をして、呂律もろくに回っていなかった。そんな彼女を間近で見ていて、おめおめと婚約したいと言える男なんて夫として論外である。
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