五章

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 7年前、華生を連れて帰った翌日の話である。早朝成親が身なりを整えていると、部屋をノックされた。 「親父、起きているか」  気の毒なことに彼の3人の息子の中で「おはよう」をきちんと言えるのは次男だけである。 「何だ」  返事をすると自分そっくりの可愛げのない長男が顔を出した。 「話がある」 「手短にしろ」  成親は鏡越しに一彬の顔を見ると、そのまま鏡台の上のヘアムースを手に取る。 「一人、女の子を連れて帰って来た」 「彼女か?」  年頃の息子がわりと際どい話をしているというのに、成親は自分の髪の方が気になるのか、鏡の睨んで生え際辺りを撫で付けている。 「馬鹿言うな。まだ十になったかならんかだ」  ようやく彼は息子の顔を直に見た。 「……は?」
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