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「訳ありだ。うちで面倒を見させてくれ」
成親は「お前が馬鹿言うな」の一言を言うタイミングを失った。淡々と物を言う息子に向かって彼は眉を潜める。
「……まさかお前無体なことはしてないな?」
「見下してくれるな。そこまで腐っていない」
元々ぶすくれた顔をしているのも悪いのだが、実の親にあらぬ嫌疑を掛けられたにも関わらず一彬はさほど表情が変わらない。
「何故うちで面倒を見る必要があるんだ」
「投資だと思えばいい。家出娘だが、見てくれは悪くない。数年したら嶋木の娘としてどこかに嫁がせれば会社に有益だろう。本人も了承済だ」
成親が呆れたように口を開けた。
「お前人の血が通っているのか。誰かは知らんが十になったかならんかの娘にそんな話をしたのか」
「あんた、17年前に長嶺に自分を差し出したじゃないか」
成親のこめかみがピクリと動く。息子は好機とばかりに眼をギラつかせながら畳み掛けた。
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