五章

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 それから7年後の一彬が肩を揺らしながら鑑田の会社のエントランスに入ると、ちょうど息子の鑑田が正面のエレベーターから出てきた。 「どうも」 爽やかに笑いかけてくるが、目は笑っていない。 「一彬お兄さん。昨日ぶりですね」 「お兄さん」と呼ばれた一彬は、鑑田をギロリと睨みつけた。 「……社長は」 「今は接待中です。何か急用でした?」  わざとらしく小首を傾げる動作が鼻に付く。暗に「アポ無しで社長に用なんてどういうことだ」と言いたいらしい。 「華生との婚約の件だ。失礼は百も承知だが、華生は貴方に渡せなくなった」  一彬は「失礼は」とへりくだっておきながらどこか言い方が偉そうでいけない。 「何故?」  とぼけた顔に殺意が芽生えるが、一彬は悟すように説明する。 「解るだろう。貴方の会社の男が華生に危害を与える恐れがあるからだ」 「それは野木専務のことですか?」 「名前など知らんがそいつは華生の元親戚だ。その人と華生が接触してはならない」
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