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鑑田は言い返そうとする一彬に「いいですか?」と聞きながら睨みつける。
「あまり自分で言うのは気が進みませんが、僕は鑑田グループの跡取り息子だ。そして野木専務の表面上から鑑みるに、その妻、それも姪に迂闊なことはしない筈だ。華生さんが他の家に嫁いだとすれば、鑑田グループの眼が届かなくなる。彼女の所在が知られた今、会社の専務という枷のない彼が、どこの馬の骨ともわからない男の目をかいくぐるくらい造作もないのでは?」
一彬がぐっと押し黙った。鑑田の言うことも一理ある。社長のお気に入りとは言え、息子の妻に無体なことをしたとあれば免職、最悪警察沙汰になるかもしれないなら迂闊に手は出せない。それに息子も案外聡い。華生と専務が接触する機会があろうものなら、常に目を光らせるくらいの能力はあるだろう。
一彬の口から出た言葉は、もはや負け惜しみだった。
「……華生に何かあったら、問答無用で連れて帰るからな」
「肝に銘じておきますよ。貴方の大切な『妹』ですから」
一彬は鑑田の薄ら笑いを一瞥する。十歳近く歳が離れているのに、息をするように腹立たしい。
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