五章

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そうして不機嫌を露わにした一彬が自宅に戻ると、廊下を歩いていた華生がびくっと肩を震わせた。 「あ、あぁ兄様。お帰りなさい……」 「悪い。驚かせたか」 華生の怯えた顔に多少反省したのか、一彬は僅かに表情筋を緩める。しかし、長い間そのままではいられなかった。 「きゃっ」 一彬は無遠慮に華生の華奢な手首を掴む。袖を少し捲ると、小さく紅い痣が鮮明に烙印されていた。 まじまじと一彬の視線を受けている所為で、華生の腕にはじんわりと汗が滲む。 「えっと、これは……虫に刺されて」 一彬は華生のでまかせなど信じようともしない。 「……鑑田さんか」 華生が唇を噛んだ。 「……はい」 「……っ!」 一彬は自分から掴んだ彼女の手首をそのまま投げ出してさっさと自室に戻ってしまった。 たまたま部屋に飛んで来ていた季節外れの蚊を片手で握り潰す。手のひらに滲んだ紅を見ると顔がまた歪んだ。 まぁ、あいつも厄介な虫には違いない。
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