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「華生」
低い声と共に、ドアをノックする音。
「はい!」
華生は返事をしながら背筋を伸ばす。
「夕食だ」
ドアノブを回す一彬がひょっこり顔を出し、華生の胸はどきりと冷や汗を掻いた。
「い、今行きますね!」
華生が部屋から出て来ると、一彬がものを言いたそうに口をむずむずさせながら彼女を見下ろした。
「……どうしました? 兄様」
「……野木はあれからお前にちょっかいをかけていないか」
あれから毎日笹野に学校まで送迎してもらうようになった。極力接触をしないように、一彬は気を遣ってくれている。
「はい、今のところ」
華生の笑顔を見る一彬がホッと胸を撫で下ろす。華生や弘海くらいしかその様子はわからないが、安堵したときの彼は僅かに肩の位置が下がるのだ。
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