五章

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一彬が華生の頭に手を置いた。いつもは鷹のように鋭いその眼に、仄暗い陰がある。 「こうなるならば、お前を鑑田の家にやろうとしたのは失敗だったな」 華生の両手は無意識に耳を塞ごうとして虚空を舞った。 嫌だ。この続きを、聞きたくない。 一彬の言葉は華生の予想を裏切らない。 「他の家に嫁がせることも考えたが……お前は鑑田に気に入られ過ぎた」 やはり、私は「駒」でしかないんだ。 華生は固く閉じた口を無理矢理こじ開ける。 「嶋木家の為には、鑑田さんの奥さんになるのが一番いいのでしょう? 華生は……それで本望です」 夕食でしたね、華生は頭に置かれた一彬の手を押し退けリビングに向かった。 その日の食事は、彼女にとってどれも砂の味だった。
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