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鑑田が学部棟の前で手を振っている。秋用の薄いコートの下はチェックのシャツにジーンズの無難な格好だが、細身でスタイルの悪くない彼には様になっていた。
「鑑田さん、ごめんなさい。寒かったでしょう?」
息を切らす華生を見ると、鑑田は目を細める。
「そんなことないよ、今出て来たから。どこかでお茶でもする?」
「ありがとうございます。せっかくだけど、笹野さんを待たせているから」
「そうなんだ。珍しいね。華生さんが『会いたい』なんて」
華生の声には、まだ微かな吐息が混じっている。
「どうしても、直接言わないといけないことがあったんです」
彼女の透明な瞳が鑑田を映した。
覚悟を決めた双眸は、甘めの顔立ちにはそぐわない鋭さを纏い目の前の婚約者を射抜く。
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