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その声は昭然と言葉を放った。
「鑑田さんと、交際させていただきたく思います」
「えっ……ええっ!」
鑑田は目を剥いた。こないだはキスしてきた癖に随分初心な反応をする。
「結婚を前提に。よろしいでしょうか?」
決然とした佇まいの華生に対する返事は、なよ竹のように頼りない。
「お……おれでいいの……?」
「鑑田さんがいいんです。よろしくお願いします」
華生は深々と一礼した。
「う、嬉しいよ。華生さん……」
顔を朱にして満面の笑みを浮かべる鑑田に向かって、華生もにっこりと微笑む。
「よかった。今日はそれだけ伝えたかったのです。それではまた、連絡しますね」
彼女はくるりと背を向けて早足で歩き出す。キャメルのコートのポケットから再びスマートフォンを取り出し、それを耳に当てる。
「笹野さん、華生です。用事が終わりました。……ええ、伝えたいことがあっただけですから。……はい、よろしくお願いします。それでは」
スマートフォンをコートに仕舞うと、華生は大きく息を吐いた。
——これが、私の生きる道。
彼女の後ろ姿は、常に毅然として感情なんかあるのかどうかもわからない誰かの歩く姿に、とてもよく似ていた。
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