五章

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世津子の部屋から出たところで、一彬と鉢合わせた。ワイシャツを着ているがネクタイはしていないので休日らしい。 「出掛けるのか」 「は、はい。映画に行くのです」 華生は少し目を逸らした。 「誰かと待ち合わせか? 連れて行ってやろうか」 多忙の一彬がこんなことを言うのは珍しいが、華生は申し訳なさそうに辞す。 「あ、ありがとうございます……でも……鑑田さんが来てくれるから」 「鑑田?」 一彬の声に不機嫌の色が混じった。 「あ、いらっしゃったみたいです」 スマートフォンを覗く華生はそそくさと玄関に向かう。 玄関の前では軽自動車の横で鑑田が待っていた。華生が出てくると、「華生さん!」と満面の笑みを浮かべながら近付いてくる。
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