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鑑田は一瞬、華生と一緒に出てきた一彬を見た。
「待たせたかな? 華生さん」
「とんでもないです、今日はよろしくお願いします」
華生は手に持っていたコートに袖を通しながら玄関を出る。
「今日は冷えるね」
鑑田が華生に取り留めのない話を始めた。そして、ドアノブを掴んで華生が出るのを待っていた一彬の身体が凝固する。
その目は華生の左肩に釘付けだった。鑑田が、当然のように彼女の華奢な肩に手を廻しているのだ。
「じゃ、お兄さん。行って来ますね」
鑑田の口元がつり上がる。一彬は返事をしなかった。二人を乗せた車が見えなくなった後、一彬はドアを引き壊す勢いで閉める。
「……あの餓鬼……!」
思わず呟いた後、大きな音に驚いて出てきたらしい世津子と目が合った。
「あっご、ごめんなさい!」
何も悪いことをしていないのに謝って逃げていく彼女を見送りながら、一彬はポケットの中の煙草を取り出し火を点ける。
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