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鑑田の目がぱちぱちと瞬く。華生の顔は真顔だ。
「嶋木酒造が倒産したら、自分や兄様達は勿論、社員が路頭に迷うことになります。お父様が瑛子お母様を選んだことで、嶋木酒造の社員皆の首が繋がったんです。兄様のお母様はわかりませんが、一彬兄様はお父様の判断に対して、一切の不満を持ってない」
狐につままれたような顔の鑑田を見ると、彼女は寂しそうに笑みをこぼして話を付け加える。
「でも、会社に振り回されたお母様に心を痛めない一彬兄様ではありません。瑛子お母様は良い方だけど、複雑な思いあるでしょうね。だから、一彬兄様は自分の為の結婚はしません。今後嶋木酒造にもしものことがあった時、自分が切り札になるように……自分が愛した人を、不幸にしないように」
鑑田は華生が息もつかずに話をするのを黙って聴いていた。ようやく華生の声がやむと、静かに問う。
「それが……七年間見てきた一彬お兄さん?」
「はい!」
花が開くように顔を綻ばせる彼女に、目の前の恋人が言えることは何もなかった。
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