五章

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「確かに、血の繋がりのない嶋木の家と血縁関係のある野木のお宅なら、野木から嫁いで行くのが道理でしょうな」 華生の胸に成親の氷柱のような言葉が刺さる。しかしその後続いたのは思いもよらぬ言葉だった。 「……しかし、私たちは七年も華生嬢と共に過ごして彼女を家族の一員として特別な感情を抱いている。それを親類だからとて今突然訪れた貴方にさぁ御返ししろというのも薄情な話だとは思いませんか」 抑揚も声の調子も一辺倒、しかし成親が野木を見る視線は刃のようにぎらついていた。 「おとうさま……!」 「! ……一理ありますねぇ」 意表を突かれたような顔の野木に向かって、成親は淡々と主張を述べる。 「それに、一彬が居ない内に勝手に決めるのもいかがかと。子供嫌いのあいつが彼女を珍しく気に入っているのです。少し息子の意見も聞いてやってくれませんか」 「瑛子、華生嬢」と呼び掛けるその言葉は存外に暖かい。 「……部屋に()ってなさい。特に華生嬢、貴女は今突然のことで混乱しているだろう。少し自室で気を落ち着かせなさい」
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