五章

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「そうしましょうか」 瑛子がソファから立ち上がり華生の手を引く。華生は目を疑った。彼女が少し野木を睨んだのだ。野木は平然としていたが。 華生は自分を先導する瑛子の足音がいつになくぶっきらぼうで、オロオロと足をもたつかせてしまう。 「華生さん、ハーブティでも飲みましょう」 瑛子は成親と自分の自室に華生を引き込んだ。初めて入る義両親の部屋は経営に関する専門書とこぐまなどの可愛らしい小物が同居しており、いささかバランスが悪い。 「まったくもう身勝手なじじいだわ!」 瑛子はぷりぷりしながら湯沸かしポットにミネラルウォーターを注ぐ。 「そ、そうでしょうか……」 気に入ってもらうと困るのだが、そんなに怒り心頭に発されると流石の華生も具合が悪い。 「そうよ! 私たちは華生さんのこと本当の娘みたいに思っているのに!」 「たち、ですか……?」 瑛子はともかく、成親とは世間話の一つもしたことがない。 「あら、今まで気づかなかったの?」 疑いの目を向ける華生を見て、瑛子は悪戯(いたずら)な顔をする。 「これ見ればわかるわよ」 瑛子が成親のとおぼしき整理された机の引き出しから小さな鍵を取り出し、別の引き出しの鍵穴にそれを突っ込んだ。 「お、おかあさま!?」 華生の動揺などお構いなく、瑛子は引き出しを引っ張りだし、ピンクの表紙のアルバムを取り出す。表紙には綺麗な字で「華生」と書いてあった。
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