五章

45/45
前へ
/264ページ
次へ
 客間で華生は目を瞬かせた。成親の隣に瑛子、弘海、風恒(かぜつね)まで勢揃いしている。 「兄さん達、いつの間に」 「一彬兄さんに呼ばれたんだ。俺も風恒も」  基本の表情が微笑んでいる弘海の顔が硬い。風恒も軽薄そうな調子は影を潜め、ムッツリと居心地悪そうに壁にもたれかかっている。 「そこに座れ。華生」  一彬が机のちょうど真ん中にある椅子をさした。 「……はい」  彼女が腰掛けた真正面の椅子に座るのは一彬だった。  表情が昏い。机の上で握り締められた両の手も、十歳ほど歳を取ったかの如くカサついて元気がない。  良い話では無いことだけはすぐに理解できた。  一彬は張り詰めた華生の顔を見て、それまで固く閉じていた口を開く。 「来年の一月一日、お前と鑑田さんの結婚が正式に決まった……おめでとう」
/264ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1328人が本棚に入れています
本棚に追加