六章

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「はい、しかしあまり肯定的ではないみたいですね。本当に華生は愛されているようで」  野木は社員も恐れる強面親子を前にずっとニコニコしているのだから大した面の皮である。一彬は煮え繰り返りそうな腹を抑えて冷静に反論した。 「難しい年頃ですし、環境の変化に戸惑うでしょう。うちにいる方が賢明だ。金の問題は気を揉まなくて構わない。このままお引き取りを願えますか」  温厚を気取る野木の瞳に、執拗そうな光が(あら)われる。 「お言葉を返すようですが、私にも親権を主張する権利はあります。なんせ(わたくし)の兄の娘ですから」  二人は眉間に皺を寄せて野木の言葉を待った。野木は口調を崩さずに畳み掛けてくる。 「それに、叔父としての不安材料もある。……こう言っては何ですが、お宅は歳が近い息子さんがいらっしゃいますから思春期の華生には……心配ですねぇ。いえ、息子さんを信用していないのではありません。ただ、華生の刺激になるでしょう。その点うちは皆娘だから」  ぬけぬけと何を言うんだという言葉が喉元まで控えているが、二人には言い返す言葉がない。事実数ヶ月前風恒が華生を襲いかけている。  それに、一彬にも全く心当たりがないと言うことはできない。
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