六章

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 無言の二人に、野木は更に水を差した。 「特に一彬さん、貴方異常に華生に懐かれてますねぇ。婚約者がいる娘とは思えないくらいだ。あまり一緒に居ると妙な輩に勘繰られてしまうのではないかと、叔父は心配です」  一彬が俯いて拳をぎゅっと握り締める。成親はすかさず野木に取りなした。 「……息子も気が動転しております。申し訳ないが、日を改めてまたお話ししましょう。少し落ち着いてからの方が話はまとまるでしょう」  野木は一瞬舌打ち顔をしたが、すぐに笑顔に戻り席を立った。 「……わかりました。私も、無理矢理奪っていったとは思われたくありませんからな。今日は引き上げます。お時間取らせました」  更に帰り際に一言、捨てゼリフのように残す。 「そうそう。鑑田社長に華生のことを話したら、大層喜んでくださって。『やっぱり血が繋がった同士が一緒なのが一番いい』」と。  彼の足音は、魔女の高笑いのようだった。
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