六章

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反論が続くと思いきや、息子は察しが良かった。 「野木専務が来たんですね」 「華生を返せと言われた。お前の親父は野木の味方だろう。こちら側に引き込むならば、息子のお前が少々ワガママを言うしかない」 無茶言うな……と電話の向こうの鑑田がボヤく。 「……結婚が間近だから籍を変えたり何なりの手続きは今更面倒だ、と押し切るんですね?」 「話が早くて助かる」 鑑田の言葉は力強かった。 「わかりました。必ず父に『許す』と言わせます」 「頼んだぞ」 返事の代わりに、沈黙が流れる。不審に思った一彬は鑑田に問い掛けた。 「……どうした」 「いや……随分淡々と喋るなと思って……」 「俺の口調はいつも変わらん」 一彬が愛想の無い返答をすると、鑑田の苦笑が聞こえた。 「……そうですね。一旦電話を切りますよ」 通話が途切れた後、一彬はスマートフォンを無造作にソファに投げる。 「……会社の跡継ぎが親父一人口説けなくては務まらんだろう」 「じゃあお前は一生無理じゃないか」 偉そうな一彬に成親が茶々を入れる。もっとも、お茶目とは程遠い口調だが。 「俺の親父はあちらさんと違って偏屈だからな」 「そうだな、だからお前みたいな輪を掛けて偏屈なのが育つんだろ」 一彬は父親に向かって舌打ちをする。 鑑田から折り返しがあったのは三時間後だった。
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