六章

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その週の土曜日、鑑田が正式に両親と挨拶に来た。息子が大概の無理を言った筈だが、社長夫婦は存外に上機嫌そうに足を弾ませながら来た。 嶋木の客間のソファに座るなり、社長夫人が華生の手を握る。 「こんな可愛らしい奥さんを貰えるなんて柊聖(しゅうせい)は幸せだわ」 「い、いえそんな……ふつつかものですが……」 「謙遜なんてしなくていいわ、ねぇ貴方?」 鑑田社長もふくよかな顔いっぱいに笑みを浮かべていた。 「本当に、息子の我儘を通していただいてありがとうございます」 華生がギクリと表情を強張らせる。無理を言ったのはこちら側だ。裏工作に慣れていない瑛子も彼女同様気まずそうにもじもじしているが、成親と一彬はポーカーフェイスで「こちらこそ光栄です」などと言ってのけている。 「華生も柊聖さんとなら……幸せになるでしょう。妹を、よろしく頼みます」 一彬がいつもの仏頂面で月並みな一言を贈ると、鑑田は真面目な顔で切り出した。 「……あの、少し華生さんと二人でお話をしたいのですが、席を外しても構いませんか?」 嶋木一同が顔を見合わせて頷く。 「……私は構いませんけど」 一彬が許可を出すと、鑑田はニコッと微笑みながらすくっと席を立った。 「それじゃ、華生さん」
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