六章

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鑑田が華生の手を取って連れて行く。 「少し歩こうか」 「は、はい」 二人は外套を着て庭周辺を散歩することにした。幸いにもポカポカした気候で風は弱く、歩くことは苦痛ではない。 硬い足取りでついて来る華生に、鑑田は気遣わしげに問い掛けた。 「……心の準備はできた?」 鑑田を映す華生の瞳は、すでに教会に控える新婦のような(おごそ)かさを醸し出す。 「はい」 「本当に? 俺は全然だよ」 鑑田は冗談めかして笑い飛ばした。華生は思わず歩みを止め、その場で唇を噛む。 「……この度は、私の都合で無理をさせてごめんなさい」 「あぁ、ごめんね。そういう意味で言ったんじゃないよ。こういう言い方は気を遣っちゃうよね」 鑑田の手が華生の陶器のような手を取り、優しく甲に口付けた。彼女が目を丸くすると、「やっぱり気障か」と苦笑する。
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