六章

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外から帰ってきた二人は仲睦まじいと誰もが思った。 鑑田一家は終始笑顔で、「正月を楽しみにしている」と言い残した。 「これから忙しくなるわね」 瑛子は華生の肩を抱いて囁いた。 「はい……!」 華生はくすぐったそうな微笑みを返す。 その後も嫁入り準備、周囲への挨拶、どこから嗅ぎつけたのかわからないが厄介なマスコミ対策などに追われている間に、年末になっていた。 華生が嶋木で過ごす最後の一日だった。もう鑑田家にある程度の荷物は運んでおり、今日は水入らずゆっくりと過ごせるようになっている。 朝はいつも通り起きて世津子(せつこ)が朝食の準備をするのを手伝い、笹野の運転する車で瑛子と買物に出掛け、帰省した弘海と談笑を楽しみ、夕食に年越し蕎麦を啜った。 年が明けるまであと二時間、一彬が部屋で読書をしていると、ドアが遠慮がちに二回ほど叩かれた。 一彬はその音で誰が訪れたのかわかる。 「入ってこい」 紺色のワンピースを着た華生が、「失礼します」と顔を出した。
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