六章

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「桜が咲くか咲かないかの頃だったかしら。しばらくして学校から帰宅したある日、叔父が母の上に乗って動いてました。小説なんかでよく『愛し合う』なんて形容しますよね。私、あの言葉大嫌いです」  吐き棄てる華生の可憐な顔が、醜く歪む。  本性を剥き出しにする獣のような叔父に母が同じ気持ちを抱いているだなんて思うと、吐き気が止まらなかった。 「間も無く母は全てを話してくれました。夜自分が何をしてお金を稼いでいるのか、あの叔父が自分に何をしていたのか。彼女が病に倒れたのはそのすぐ後です」  華生は薄い笑みを一彬は無言で見つめている。無理矢理にでも笑っていないと、今の彼女は話をすることができなかった。 「気付いた時はもう手の施しようがない状態でしたが、最期まで入院を頑なに拒んでいたそうです。多分、私を一人にしたくなかったのでしょう。看病をしていた私に、母は鬼気迫る表情で言いました。『私が死んだら、稔叔父さんは必ず貴女の後見をかって出る。何があっても絶対に受けてはダメ』と。風俗で働いていた母に頼れる親戚はいませんでした。母も探してはくれてたみたいですが父方も風当たりが強くて……結局見つからぬまま母は亡くなりました」
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