六章

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そこまで話して一度言葉を切った華生の表情がさっと晴れた。ほおも薔薇色に染まり、瞳も黒真珠のような輝きを帯びる。 「葬儀の後叔父の目を盗んで逃げ出して、アテもなく適当な風俗店に入って店の人に突き飛ばされて、貴方を初めて目の当たりにした時、王子様が迎えに来てくれたんだと思いました。全身真っ黒で怖い顔をしていたけど、大きな手は暖かくて、海のような香りを吸い込むと、泣きそうになるくらい安心した」  王子様なんて似ても似つかない外見と性格なのに、一目見た瞬間からそうだった。 「『守ってやる』と言われた時、この人のためならなんでも出来ると思いました。それは紛れもなく初恋でした」  想い人の為に顔も知らない男に嫁ぐ準備をするなんて、役得だと思った。 「私が貴方の側に居るには、『妹』になるしかなかった。でも『妹』という言葉は便利ですね。貴方の隣にいても許される免罪符のようにその立場を利用してました」  悪びれもせずぬけぬけと白状する彼女の内から、清楚な外見と相反する妖艶さが薫る。
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