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「異変を感じたのは、婚約の話を聞いた日でしょうか。時が止まったかのような感覚を覚えました。ショックで何も考えられなくなって……貴方の為なら何でも出来ると思ってたのに、滑稽な話ですよね」
働かない脳から無理やり相応しい言葉を捻り出して、その後事件は起きた。
「あの後兄様に抱きしめられた時、夢を見ているんだと思いました。醒めなきゃよかったのに、兄様は残酷ですね」
軽い口調で恨み言を言いながら、一彬の居心地悪そうな顔を見て彼女は首を横に振った。
「……わかっているんです。兄様が一人でいる理由、自分のことなんかいつも後回しにして、仕事仕事、会社会社。いつもスーツにネクタイ、帰ってくるのは深夜。でも誰よりも優しくて暖かい。そんな一彬兄様だから、私は好きなんです。今でも一番に想うのは……貴方です」
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