六章

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 鑑田の表札が付いた玄関前、北風を物ともせずに夫となる人が首を長くして待っていた。華生は車を降りると静々と鑑田のいる場所に向かう。彼は自分でも気が急いたように彼女を迎えに来る。 「あけましておめでとう、華生さん」 「あけましておめでとうございます。鑑田さん。今日からお世話になります」 「こちらこそ、笹野さんも。華生さんを連れてきてくれてありがとうございます」 鑑田は華生のキャリーケースを運んでくる笹野に礼を言った。笹野は「一度しか会ってないのによく覚えてましたね」と嬉しそうにほおを緩める。 「華生さん、素敵なご主人のお嫁さんになれて良かったですね」 「はい、華生は幸せです」 華生が素直に肯定すると、鑑田は「そんなことないよ」とほおを赤らめて謙遜した。笹野はその様子を見てほほえましい、と呟く。 「まだまだお若いですね。どうか、幸せにおなりください。それでは、また」 笹野が帽子を取って一礼してから車に戻り、嶋木家に帰っていった。 「よろしくね。華生さん」 鑑田が華生のキャリーケースを引き、華生は鑑田の手を握る。二人は共に、朱いカランコエが行儀よく並ぶ玄関をくぐった。
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